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遺伝性腫瘍(がん)とは?

がんが発生するメカニズムと遺伝性のがん

ヒトには元々、がんの発症を抑制する「がん抑制遺伝子」というものがあります。
この遺伝子に変化(病的変異)が起き、細胞分裂が異常になりがん化します。
遺伝により発症するがんの多くは、この「がん抑制遺伝子」に、生まれつき変化がある(変異している)ことにより、発症するといわれています。

普通のがんと遺伝性のがんの違い
遺伝子検査の対象となるがんの特徴

遺伝性のがんが疑われて遺伝子検査が行われるケースは次のような特徴があります。

①若いのにがんになる

遺伝性のがんは、通常のがん発症年齢よりも10~20才若く発病すると言われています。
30~40才以下の若年で発症した場合には、遺伝的な原因が関係していることがあります。

②家族にがんが多い

遺伝するがんの多くは常染色体顕性(優性)遺伝という形式で伝わります。
これは、男女の性別に関わりなく親から子供に50%の確率で遺伝子が受け継がれるということです。
もしご両親や兄弟があなたと同じようながんにかかっている場合、さらに父方か母方のどちらかの家系にがんが多発している場合には、遺伝的な原因が関係していることがあります。

③何回でもがんにかかる・いくつも違ったがんができる

一度がんにかかって完全に治ったあとも、同じ臓器の別の場所、あるいは別の臓器に新たにがんができることがあります。
多発がん・多重がんの発生には遺伝的な原因が関係していることがあります。

④がんの家族歴が認められない、あるいは不明である

がんの原因となる遺伝子を保有していても発症しない場合があります。
あるいは親が早く亡くなっていて、死因が不明であるような場合もあります。
このような時も遺伝子検査を受けることで診断が可能になることがあります。

代表的な遺伝性疾患について

1) 家族性高コレステロール血症FHFamilial Hypercholesterolemia)

家族性高コレステロール血症は、LDLコレステロール(悪玉コレステロールと呼ばれています)が血液中で高くなり、若いときから動脈硬化が進んで、血管が細くなったり詰まったりする病気です。
特に心臓の血管(冠動脈)に影響が大きく、心筋梗塞や狭心症を引き起こします。 
一般人口の300人に1人程度おられる比較的高頻度の遺伝性疾患です。
重症のケース(ホモ接合体と呼ばれます)は36~100万人に1人以上の頻度と言われており、ホモ接合体性の場合には指定難病となります。

LDLコレステロールは通常、肝臓で大部分が処理されます。
しかし、この病気の患者さんでは、血液中のLDLコレステロールを肝臓で処理できないか、処理する能力が低いため、その血液中濃度が上昇し、血管壁にたまって動脈硬化が進みます。

心筋梗塞の発症は、男性では20歳代から、女性では30歳代から始まります。
このように、若い年齢で心筋梗塞を中心とした動脈硬化性疾患を起こすのが特徴です。
重症の場合、幼児期に心筋梗塞を発症することもあります。
このような体質が遺伝するので、親、兄弟、叔父、叔母、祖父母、子供など、血のつながった方の中にも同じようにコレステロールが高く、心筋梗塞、狭心症などの心臓病が発症する人が多いことも特徴です。 
この疾患の遺伝学的検査は、診断基準に一致する場合は保険診療で受けられます。
検査費用と検査前後の遺伝カウンセリング費用等を含め、3割負担の方では、約2万2千円程度になります。
診断基準に合致しない場合、あるいは親がFH遺伝子検査で陽性かつ子供が未発症の場合の子供の遺伝子検査は自費診療となります。

動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年度版 成人(15歳以上)FHの診断基準

  1. 高LDL-C血症 
    (未治療時のLDL-C値 180mg/dL以上)

  2. 腱黄色腫 
    (手背、肘、膝等、またはアキレス腱肥厚)あるいは皮膚結節性黄色腫

  3.  FHあるいは早発性冠動脈疾患の家族歴 
    (第一度近親者)

他の原発性・続発性脂質異常症を除外した上で診断する。

すでに薬物治療中の場合、治療のきっかけとなった脂質値を参考にする。

アキレス腱肥厚はX 線撮影によリ男性8.0 mm 以上、女性7.5 mm 以上、あるいは超音波によリ男性6.0 mm 以上、女性5.5 mm 以上にて診断する。

皮膚結節性黄色腫に眼瞼黄色腫は含まない。

早発性冠動脈疾患は男性55歳未満、女性65歳未満で発症した冠動脈疾患と定義する。 
 ・2 項目以上を満たす場合にFH と診断する。 
 ・2 項目以上を満たさない場合でも、LDL-C が250 mg/dl 以上の場合、あるいは2 または3 を満たしLDL-C が160 mg/dL 以上の場合はFH を強く疑う。

FH 病原性遺伝子変異がある場合はFH と診断する。

FH ホモ接合体が疑われる場合は遺伝学的検査による診断が望ましい。診断が難しいFH ヘテロ接合体疑いも遺伝学的検査が有用である。 
・この診断基準はFH ホモ接合体にも当てはまる。

FH と診断した場合、家族についても調べることが強く推奨される。

動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年度版 成人(15歳以上)FHの診断基準

LDL-C≧180mg/dL 
(15才未満≧140mg/dL)
FH原因遺伝子 病的バリアントの有無 
(LDLR/APOB/PCSK9)
20,453件中942例(4.6%) 
データ不備を除く636例の解析 
(CAD、臨床所見不明、遺伝子検査未実施、FHホモ接合を除外)
なし
あり
家族歴 and/or 腱黄色腫 
臨床所見の有無
なし
Group 1 (n=76) 
Referrence 
CAD有病率 
オッズ比 1
Group 3 (n=76) 
CAD有病率 
オッズ比 
3.4(1.0-10.9)
あり
Group 2 (n=58) 
CAD有病率 
オッズ比 
4.6(1.5-14.5)
Group 4 (n=424) 
CAD有病率 
オッズ比 
11.6(4.4-30.2)

ada, H. et al. Eur Heart J. 38:1573-1579, 2017.

2)遺伝性乳がん卵巣がん症候群 HBOCHereditary Brest Ovarian Cancer)

BRCA1またはBRCA2という遺伝子に、生まれつき遺伝子が正常に働かない変異があるため、一般の人よりがんが発症しやすくなっている状態です。
がんの既往歴にかかわらず、一般的に200~500人に1人がHBOCに該当すると言われています。 
 BRCA1またはBRCA2別のなりやすいがんは以下のようなものがあります。

BRCA1/2遺伝子病的バリアント保持者の85才までの各種がん種の累積罹患リスク

3)リンチ症候群(遺伝性非ポリポーシス大腸がん:HNPCC)

大腸がんや以下のようながんの発症リスクが高まる疾患です。全大腸がんの2-5%程度と考えられています。
ミスマッチ修復遺伝子(MSH2・MLH1・MSH6・PMS2)の変異で起こります。

リンチ症候群関連遺伝子病的バリアント保持者の80才までの各種がん種の累積罹患リスク※1

4)家族性大腸腺腫症(FAPFamilial Adenomatous Polyposis)

家族性腺腫性ポリポーシスは、APC遺伝子の変異を原因とし、大腸に若い時から大腸(腺腫性)ポリープができて、年齢とともに数が増えて、ポリープが100個以上できる病気です。
大腸ポリープは年齢ともに増加するだけでなく、やがてがん化します。
典型例では、10歳代で大腸にポリープができはじめ、徐々に数が増え、放っておくと40歳代までには約半数の方が、60歳代にはほぼ100%大腸がんになるといわれています。
このため大腸ポリープが大腸がんになる前に、大腸を切除するなどの処置が行われます。 
また、名称からは大腸だけの病気のように思われますが、胃や十二指腸、小腸にポリープ、甲状腺がん、骨腫瘍、デスモイド腫瘍という軟部腫瘍など、大腸以外にも症状がでます。

様々ながんの原因遺伝子を調べるパネル検査 (商品名:VistaSeq®)

最近は次世代シークエンサーと呼ばれる機械が開発され、複数の遺伝子を一度に調べる遺伝子検査が登場しています。

VistaSeq®は日常比較的よく認められる27種類の遺伝子を次世代シークエンサー、遺伝子チップ、MLPA法等の方法を組み合わせて一度に調べる検査です。(所要日数4~5週間)

遺伝カウンセリングで聞いたあなたの家族歴に合わせて、最適な遺伝子の組み合わせを選択することも可能です。

費用はパネル検査と検査実施前後の2回の遺伝カウンセリング料金を含む自費診療で約25万円(税込価格)です。

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